物理学科をでて、企業の人工知能開発の研究者になり、のちに起業家になった著者。
バブル時代の企業戦士であり、働く母として多忙な子育てだった。
父親の両親と同居して、授乳のために自宅にもどる(1日職場まで2往復)したりの日々だったし
コンサルタントになってからは、出張も多く、「ママかえってきて」の切ない電話をうけたこともあるという。
それでも、子育てを「優しい時間」と振り返り、今の働くママたちにエールを贈っていた。

興味の関心は常に人間の感性をいかにコンピュータに乗せるかであり、
働きはじめて10年後に授かった息子の脳は多くのインスピレーションと驚きを与えてくれた。
脳に関心があり、文献をあさりながら、ときには実験的に働きかけて過ごしてきた子育てが書かれている。
本人も多少の美化?(大げささ)はあるといっているが、感動のなせるわざといっている。

育児のテーマは「しあわせな天才脳」を育てる
具体的には、いつもしみじみと幸せそうで、常に好奇心と意欲を失わず、健康で、穏やかであったかい。
おっとりして見えるのに決断は早い。集中力があり、短い言葉に説得力がある。
頼りがいがあって、飾らない人柄なのに、なめてかかれない威厳をもっている、いつもなにかに感謝している。
という人。
キレにくく、無気力と無縁の脳をもつこと。

子育てのきほんとなるルールを「金のルール」としていた
4歳から12歳までの「早寝、・早起き・朝ごはん・読書」
3歳以下の脳は寝たいときに寝かせるのが一番だそうである。

脳には海馬とよばれる知識工場があり、ここをよく働かせることが知識獲得のきほんである。
ここは寝ている間にしか働かない。成長ホルモンがでるのも寝ている間。
そして睡眠の効果がでるプラチナタイムは午後10時から午前2時。メラトニンという脳内物質が分泌のピークを迎えるから。
寝ていても光を関知してしまうので、部屋は真っ暗にする。刺激がのこるのでテレビやパソコンは9時までにする。

アーユルヴェーダでは朝5時台におきるのを推奨している。
著者も実践しているが、目覚めが格段にちがうそうである。
覚醒時に分泌されるセロトニンは網膜が明るい自然光を感じた時分泌される。
そして朝日をあびて反復運動をすると分泌量が増える。
このホルモンは「しみじみと満ち足りた気もち」にしてくれる。
いい思いがしたかにかかわらず、脳にセロトニンがでていると幸福になれるのだ。
これがでていると「幸福なやる気」が生み出される。
この「しみじみと幸せな気持ち」は海馬が体験を再生するときの印になる。つまり知識になりやすいのだ。
セロトニンがでていると情緒教育になっていて、感動できる子になる。是非、早寝・早起きを。

脳は眠っている間にも働いている。あさごはんは脳への栄養補給。
特に必要なのは炭水化物とアミノ酸。 ご飯とみそ汁や納豆、パンに卵やチーズは王道で正しい。
大人は睡眠中の海馬の活動がさほど活発でないが、子どもは絶対に朝ごはんが必要。
ぐっすり眠って朝5時台に起きると、朝ごはんが食べられないなんて小学生はいないはず。

読書は海馬に知識の素を提供する。
3-7歳までは同じ年頃の登場人物やペットなど、自己投影できる題材を、母親や本人家族の音読とあわせて◎。
8-12歳はファンタジーや科学本、海外文学や歴史文学など、日常とは違う世界観を味わうと効果的。
日常では体験できない豊富な生活体験のかわりになる。
発音体感は、小脳(身体感覚と空間認識をつかさどり、8歳で完成)を刺激するので、音読は効果的。
人の発音も自分の発音のように感じる脳力があるので、音読をきいても効果は同じ。
8歳からは文字だけで発音体感が得られるようになるので、読み聞かせを嫌がる子供もいるから、そうしたらやめよう。
8歳は言語脳が完成して長い文脈を把握できるようになるので、シリーズものに挑戦できる。
映画やゲームでもいいが、映像やその他の感覚を仮想的に作り上げる脳の行為は崇高で、読書以外では得られない。
男の子は3次元系の仮想体験は想像力の支援にいいらしい。
赤ちゃんの絵本は知識よりコミュニケーションツールである。絵本をみていなくても叱らないで。

脳の機能4つ
「感じる力」・・・うまれつき持っている、無意識、考える力につかう母語を習得する、人の動きをまねてさまざまな能力を獲得す

る。フェロモン(関知できる匂いではないが、遺伝子の相性=免疫の構造が違う相手がいい相手に感じるとしてあった)を使って

、生殖に有利な相手を関知する能力。他にも聞こえない音や図形からなにかを感知しているらしい。早寝・早起きしていれば

自然と身についているはず。

「直観力」・・・感じる力と考える力の橋渡しをする。「うすうす感じていることを行動に結びつける能力」。「考える力」にとらわれ

ると直感ははたらかなくなる。先が見えない時は直感の力を呼び戻すために「ことば」から脳を解放する(座禅や瞑想)する必要

がある。直観力の基礎は小脳が発達する4-7歳、「感じる」「直感」「考える」の連携は9-11歳に作られる。

「考える力」・・・意識的に働かせる。論理・計算、言語を担当していて、「頭がいい」といわれるのは普通この力。

「知識工場」・・・眠っている間に働く海馬という部位。体験や学び、本でよんだことなどを寝ている間に知識にしてくれる。無意

識の行動にも組み込まれる。

起きている間は「感じる力」「考える力」直観力がしっかりはたらき、寝ている間は知識工場・海馬が活性化するのが「いい脳」

脳には臨界期があり、8歳までにしか絶対音感はそだたないといわれている。
というわけで、
3歳までは、生まれつき持っている「感じる力」をこわさない
4-7歳は直観力を育てる
7-8歳は言語能力完成期。親との会話が大切。
9-11歳は感じる力と直観力の連携きかんなので、金のルールを守る
12-15歳は考える力を育てる。
ということになる。

脳の本来伸びる力をつぶさない=潜在能力を失わないようにすることが大切。
今の若者の無気力や無力感は直観力低下(睡眠不足で育った脳)のせいではないかといっていた。


先の脳の発達にあわせた年齢別のルールを「銀のルール」とよんでいた。
また考える力を育てるのを「銅のルール」としていたが、それは学校や社会とかかわる中で育つものとして解説していない。

・赤ちゃん脳期(0-3歳)
 母親が幸福で安定した気持ちあることが第一。
 赤ちゃんの脳は母語を獲得し外界との関係性を築くのに精いっぱい。早期教育は害になる可能性があるのではとしていた。
 母語の獲得はその後の感じる力の基礎になる。ここで無理に外国語をいれるのは気持ちと言葉の結びつきを混乱させる可

能性があるので、やめた方がいいのではといっていた。日本語は音声認識の仕組みが母音で、他のほとんどの言語は子音なの

で、脳の使い方が違っていて、ことばと意識の関係性のコミュニケーションの仕組みが全く違う。脳の中にふたつ以上の言語モデ

ルがもてるのは大人になってからなので、外国語教育は脳が完成する12歳がよいといっていた。
 科学や設計、デザインといったクリエイティブな才能を発揮させたかったら11歳までは脳をひとつの言語モデルに閉じ込めておく

必要がある。
 3歳までは子どものペースでゆったり、母親の気持ちの安定を第一に過ごす。
 習い事など時間がきまってきるものはやらない方がいいが、孤立しそうならいってみるもいい。
 男の子は部屋中におもちゃを散らかすが、これは空間構成力をやしなっているので片付けすぎない方がいい。
 泣いたら抱き上げるのは構わないが、泣き止ませようとあやしすぎないこと。泣くのはストレス解消なのである。

・赤ちゃん脳臨界期(2-3歳)
 反抗期は子どもにとっては「外界の反応を試す時期」おおらかに構えよう。
 長い人生のほんのわずかな期間である。なんなら外出しないくらいの気持ちで。
 対処法なんて
  ・大目にみる・・・許容できる環境なら
  ・頼む・・・外なのに騒がれたりしたら、もちろん断られたら実力行使、または折衷案である。
  ・怒る・・・食べ物を粗末にしたり、人や動物に危害を加える危険なこと
 いつも叱っていると好奇心をなえさせるのと、怒りに鈍感になるのでよくないのでは。

・子ども脳前期(4-7歳)
 一生の所作のきほんができあがる。
 スポーツやおけいこ事としあわせな出会いをさせてあげよう。ただし、興味をもたないなら深追いしないこと。
 男の子は、大人の男性との時間で多くの情報をうけとる(言語にできない)ので、その時間を確保してあげよう。
 利き手の矯正は男の子はしない方がいい、脳が選んだ言語能力の宿る場所と関係があるから。女性は言語能力が高いの

で利き手を矯正しても対応できることが多い。

・言語脳完成期(7-8歳)
 沈黙の反抗期。愛していることをきちんと伝えよう
 長い文脈が理解できるようになる。そうして少し先のことが理解できるようになり、「ママは本当に僕を愛してくれているのかしら」

などという文脈も完成することができる。しかし、はっきり言葉にだしてくれる子はまれで、大抵は学校にいかないなどの症状にな

って現れたりする。無言で母親の愛情をためしているので、この時は本当になによりあなたが大事と示すこと。著者は手帳の空

いている日をしめして、「予定の入っていない日は全部あなたにあげる」という先輩ママから聞いた方法を試すと、息子は1週間

分いっしょにいてくれといったが、家に母親がいるのが窮屈だったのか、次はもういいといったそうである。
 8歳の時、子育てのツケがやってくると思っていた方がいい、そしてそこではっきりと愛情を示して乗り切るとその後の反抗期が楽

という話もあり、著者はそうだったといっていた。

・子ども脳後期(9-11歳)
 人生で脳がもっともよくなる3年間。ここは金のルールをひたすら守る。
 この時期3つの機能「感じる力」「直観力」「考える力」が連携し、子どもの脳から大人の脳に切り替わる。
 これ以降は「考える力」しか伸ばすことができないので、鍛えても石頭でナイーブな脳になってしまう。
 子どもの脳=感度がよくて、感じ取ったことを子細もらさず吸収できる脳。
 大人の脳=感度は鈍いけれど、要領よく知識を格納できる脳
 この時期脳は一生つかうOS=知識の枠組みを作っている。
 ここで「いい脳」を手に入れることは、後の人生10段変速のスポーツサイクルでいくか、安いママチャリを手に入れるかの違い。
 ひたすら海馬だのみなので、金のルールを守るしかない。中学受験は守れなくなるならやらない方がいいと思う。
 ここで手に入るのは「発想力」豊かな脳だが、この時期睡眠時間を削って手にはいらなくても、官僚などのエリート職にはかえ

っていいかも。
 著者自身は発想力の時代と考え、中学受験はさせなかったが、させるなら発想力を手放しても論理と努力でいきていく方

向に舵をきった自覚がいるだろうといっていた。

・おとな脳黎明期(12-15歳)
 子ども脳とおとな脳はまったく違うデータベースのようなもの。検索方法も違う。
 この切り替えのために、脳の持ち主も混乱している、脳にとってもっとも危うい時期。
 さらに女性ホルモン=エストロゲン、男性ホルモン=テストステロンが大量に分泌されるようになる。
 エストロゲンは女性をイライラさせる、女の子が意地悪な言動をぶつけてくるのはこのせい。自分の悪魔ぶりに動揺しているの

は本人である。周りまでつられて動揺してはいけない。
 テストテロンは競争心をかきたてる。暴力や破壊の興奮に駆り立てられ、分別を失うことがある。縄張り意識が強くなり、プライ

バシーに干渉されることを嫌う。逆上したあと、ナイーブになるのも男性脳の特徴。優しく繊細な社会性と暴力衝動のあいだで

揺れ動くのが男の子である。
 13歳から14歳は不安と自己嫌悪の中にある。タイミングを見計らってできれば男の子には母親が、女の子には男親が「愛し

ている」と言葉でつたえると、生涯の自己肯定につながる。
 15歳くらいまでには前頭葉が発達して、分別がまさるようになり、衝動はおさまってくる。
 飲酒と喫煙はこの前頭葉の発達をさまたげるので、絶対にやめること。未熟な前頭葉のままでは、更年期まで思春期なかわ

いそうな脳になってしまう。さらにドラッグは前頭葉を溶かすので一生やってはいけない。
 子ども脳のときに蓄えられたデータはおとな脳で使えるように変換されるので、この時期はいくら寝ても眠い。
 考える脳の発達がはじまるので、この時期「勉強」がみにつくようになる。体験型学習から理解型学習になり、睡眠を削って

学習しても甲斐がある時期である。詰め込みで大丈夫。もう一生使わない知識でも、整理の仕方や考え方の枠組みは一生

役にたつ。
 脳は睡眠を必要としなくても、心は睡眠を必要としている。イライラしたら、早寝・早起きでセロトニンをださないとね。
 15歳の誕生日で脳は一応完成だ。あと親にできるのは「いい友人」になることだけである。

 息子に胎内の記憶を聞いた話。
 母となるのは本当に喜びだ。
 マニュアルは神話。まどわされないで、子どもをしっかり見つめよう。お母さんが「いいような気がする」で、子どもがつやつやしてい

れば、それでいいのだ。
 母親は究極なまでに、言語能力と生活能力が発達しているが、男の子(人も)そうではない。単に能力のちがいである。責め

ないで。言語能力が低いんだから、いわれていることもわからないのです。そのかわりモノの成り立ちや機械の仕組みを理解する

能力は上なのです。男の子は「そうしたい」という気持ちでロケットを飛ばす生きもの。幼児のかれらに芽生えた「そうしたい」をつ

みとらないで無駄な沈黙の時間を与えてあげてほしい。
 
 自身が息子に泣かれて、働く母であることをやめようと思った話(でも息子が俺のためなら重すぎるというのでやめるのをやめた)

など、自身の子育てで気持ちの揺れた出来事などが書いてあった。15歳の息子はリップサービスでも「働く母がいい」といってく

れるそうだ。
 息子の子育てで一番よかったことは「絵本を読んでもらったこと」だそうだ。
 その話をしたとき、もう絵本を読む時間は終わったのだと気が付き、泣いたそうである。
 子育ては優しい夢のようなものと振り返っていた、絵本を読める人はその時間を楽しんでほしいと。


「しあわせ脳」に育てよう! 子どもを伸ばす4つのルール

  • 作者: 黒川 伊保子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/04/26
  • メディア: 単行本