著者はもともと有機農業の取材でキューバに行っていたらしい。
自分が教壇に立つことになり、キューバの教育制度にも目がいくようになり取材して本にまとめたもの。

2008年ごろの状況で、カストロが引退しており、経済は一部自由化されたものの、社会主義国としての体制がつづくキューバ。

実はキューバの識字率と学力は南アメリカでは断トツのトップで、先進国並み。
そして特徴は格差が少ないこと。先進国では全体の平均値が高くても、上位者と下位者の格差が大きいが、キューバにはそれが少ない。
特に初等教育では、親の経済状態が子どもの成績に反映されることは世界の共通認識になっているのだが、キューバでは政府がそれを無くそうと努力しており、その成果であろうとまとめている。
農村部の学力が低くなるもの世界的特徴であるが、キューバではそれも少ない。生徒が一人でもいるなら小学校をつくるという方針が徹底されていて、生徒一人の小学校もたくさんあるのだという。
また、障害児教育や幼児教育も力をいれていて、それは教育費の予算が他の国より多いことにあらわれている。
GDP10-119%くらいをしめていて、経済危機などでも予算比率的には増やしている。国連は6%を推奨しているが、達成しているのはフィンランドくらい

チェ・ゲバラやカストロ
教育されることが自由になる唯一の手段だという思想、共産主義のためには新しい教育された人間が必要との思想がが徹底されており、予算が確保され実行されている。

また、学力には学校や教師より家庭環境や地域が大切との思想も徹底しており、親への教育も重視されている。
ソーシャル・キャピタルという意味では、親のどちらかが働いており、家賃は安く、最低限の食料は保障されていて、無料で医療や教育がうけられて、義務教育までは全員が学校に通える。モノの豊かさはないものの社会的には極めてよい状態といえる。

経済封鎖の影響で物資が不足しているの教科書を使いまわしたり、手作りの教材を使ったり、親がボランティアをしたりといろいろ工夫しているらしい。
そんななかでも、質を確保するためにビデオやコンピュータを使った学習をとりいれており、山村にも太陽光パネルで電気を作ってビデオ教育が行われる。
また少人数で小学校20人、中学校15人クラスを実現。豊富な教師でクラブ活動や社会貢献も充実させている。
生徒同士が教えあるグループ学習がとりいれられ、自主的に生徒が「勉強の家」に定められた家にあつまって、よくできる生徒ができない生徒を教えるという体制ができている。
世界の流れとして習熟度別クラスは効果がなく、相互学習がよいという流れになっておりフィンランドなども、グループ学習をすすめている。日本は大教室で一方的に知識を与えるという方法や競争させて習熟度別にするなど遅れた教育をしている国で、それらを行っていた国も失敗だったと方向転換しているという。

キューバでは大学まで学費は無料。
医療費も無料。

中等教育まではみな受けるがその後は試験があり、学力があれば進学できる。
ただし入学後も試験はきびしく、落第すると他の学校に転校させられるなど、卒業するのもむずかしい。
ITや医療、芸術などの専門学校もある。
社会人になっても、試験をうけて大学に入ることもできるし、リストラされても再訓練をうける制度があるなど生涯教育が充実している。
アメリカなどでも再訓練がおこなわれているが、内容はあまりに過酷または危険だったりして、耐えきれずホームレスを選ぶような内容であるのに比べ、キューバのそれは訓練中も給料がでたり就職先が保障されているところが違うという。

実例としてソ連崩壊による砂糖業界の大リストラと労働者たちのその後の取材があった。

革命後1年で識字率100%をめざすとして、学生ボランティアをつのり、訓練して農村におくり、昼は労働し夜は文字を教えるという活動をさせた。識字率の劇的向上のみならず、若者が貧困を知り意識改革をおこした運動だったという。ボランティア教師となった若者は10万人16歳以上ならプログラムをうけ農村にいくことができた。ただ革命まもないころなので反革命ゲリラに襲われ命を落としたものもいるという。

キューバの識字プログラムは今南アメリカで採用されて実績をあげている、しかしユネスコの識字率向上運動に採用されなかったなど、社会主義国ゆえにプログラムが正当に評価されてないのではないかと懸念していた。

一方でクラブ活動や、教育内容に思想教育が入っている。学生に農業などの労働を強いている。
社会主義者でないと大学へいけないのではないか、また教育の選択の自由がないのではという批判もあるし、実際に取材で軍国的な訓練をされているというものもある。
著者は、であった若者たちは、目を輝かせて教育を受けられることをよろこんでおり、進んで学んでいるとしている。もちろん模範的な人たちばかりに取材させられている可能性もあるが、著者は政府の紹介のみならず現地のコーディネーターが合わせてくれた人たちで、その可能性は低いのではといっていた。

また、豊かな国、自由な国へのあこがれから亡命=頭脳流出の問題。
観光業の隆盛で、ドルがはいってきたため、教師が一時サービス業につきたがって、減ってしまったなど
問題がおきたときもあることも取材されていた。
ただ、政府は一貫して教育予算を増やし、すべての子どもに教育をするために努力をつづけてきており、そんなキューバを愛する人、誇りにする人もいることが取材されていた。

少なくとも初等教育はルーティンであり、学生の労働教育は社会につながる総合教育のためであるとしている。

無知こそが戦争を生む。
広島に共感し、ジョン・レノンの銅像を公園に置き、平和を軍服姿で説くカストロ。
ゲリラ戦の間も教育を行い、人間は教育がなければ自由になれないとの信念を行動でしめした。
彼の評価とキューバの教育成果はみなおされてもよいのではないか。


世界がキューバの高学力に注目するわけ

  • 作者: 吉田太郎
  • 出版社/メーカー: 築地書館
  • 発売日: 2008/10/09
  • メディア: 単行本