著者は数理系トレーダーとして長いキャリアがある。

成功しているトレーダーが優秀とは限らない、偶然がはいる余地が大きい仕事では、過去の実績は「まぐれ」である可能性が大きいから。ただし、長い間生き残るトレーダーは優秀である可能性が高い。偶然の出来事に対する備えができていなければ、生き残れないから。歯医者やピアニストのような偶然のはいる余地があまりない仕事と違って、CEOやトレーダーは運の支配する要素がとても大きい。だから過去の実績は必ずしも未来に反映されない。現実の世界ではどんな低い確率のことでも起こりうる。しかし、過去の自分の実績に自信満々のトレーダーは偶然の出来事でふきとばされる。
どんなことでもおこりうる低い確率、それは「黒い白鳥」という論理であらわされる。
「白鳥は白い」という命題に対して、どんなに白い白鳥を見ても、黒い白鳥がいないという証拠にはならない。そして、黒い白鳥が発見されるまでは、「白鳥は白い」とう命題はまちがっていることも証明できない。
黒い白鳥がいるかもしれないということを忘れてはいけない、黒い白鳥に対する予防はストップロスだけである。

世の中には成功者の体験をあつめたり、成功者の特徴をあつめて、成功法則をさがすひとがいたりするが、そんなことをしても法則なんてみつからない。なぜなら、生存バイアスがはたらくから。
成功した人にしか取材しないから、失敗したひとが同じことをしていないとは限らないのだ。

無限大数のサルをタイプの前にすわらせてタイプを打たせると、「イーリアス」をかきあげるサルが出現する(出現しなければ変だ)一方母集団のサルの数が5匹なのに、そんなサルがでたら、そのサルは天才だ!
母集団の数や質には注意をはらうべきだ。また優秀だとか成功したといわれているものには生存バイアスがかかっていることを考慮しなければならない。失敗したものはわすれさられているのだ。
バックテストもやりすぎは危険で、たくさんやればやるほど、「イーリアス」を書くサルを発見する確率があがっていくのだ。でも「イーリアス」を書いたサルが次に「オデッセイア」を書く確率はとても低い。
ノイズとシグナルを見分けるコツは振幅の大きさだ。振幅をの小さい変動を平滑化することでノイズを消すことができる。

私達の脳は確率を理解するようにできていない。偶然を偶然だと論理的に捕らえられない、感情があるので。
ただし、感情がなければ私達は意思決定をすることができない。だから感情は必要だ。私達にできるのは「自分が偶然にだまされるようにできていることがわかる程度に、自分が感情的だという事実を受け入れられる程度にしか賢くない」と悟ることだ。


まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2008/02/01
  • メディア: 単行本