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雑草たちの陣取り合戦―身近な自然のしくみをときあかす (自然とともに) [農業]

日本で見ることができる雑草はおよそ400-500種。
これらは人間が植えたのではないが、水田や花壇などのように絶えず人間の手が加えられる半自然的な環境を好む。
そして、そこで生活空間を維持するために、競争したり、季節をすみ分けたりしている。
雑草がどのように自身の陣地を築き上げていくのか、観察・解説した本。

第1章 雑草とは
雑草とはなにか研究者の間でも定義ははっきりしていない。
妥当なのは「人間の息のかかった場所に自然に生えてくる、見栄えのしない草」
有害雑草というと、農民の育てた作物の収量を減らしたり、質を落とす植物
耕地雑草というと、田や畑に種をまかれた作物以外の植物
広い意味での雑草は、家庭・河川・校庭・グラウンド・花壇や街路樹の植えますまで、人間が何らかの形でかかわっているすべての場所に生えてくる植物のうち、人間に望まれないもの。

縄文時代の遺跡からも雑草のタネが見つかっている。
人間が栽培する作物と非常に似通っている擬態雑草という種類もある。

雑草に備わった特性「雑草性」6項目
1 熟しても、種子がすぐには発芽しない。休眠する性質があり、しかも眠りから覚めるのに多くの条件をクリアする必要がある。
  発芽タイミングは成長を左右する重要な要因。
  同じ親からとれた種子でも発芽タイミングがずらしてあったりする。一斉に根こそぎにされないための工夫。
2 芽を出したらいち早く成長し、自分の陣地を確保する能力に長けている。
  周辺の環境が悪くても一粒でも実を結んで子孫を残そうとする。
  雑草は非常に多くのタネをつねる。大株のヒメムカシヨモギは82万粒のタネをつける。
3 成長の途中で葉や茎を切られたり踏みつけられても、そこから新しい芽をだす力が旺盛。
  ノシバ・ヒメシバ・ツユクサなどは各節から不定根を出す性質がある。
  地下茎を切られてもバラバラになった一つ一つから再生するヤブガラシ・ヒルガオ・チガヤなどもある。
  人間が耕す場所よりさらに深くに地下茎をはりめぐらし、休眠した芽をつけるスギナ・ヒルガオがある。
4 花を咲かせた雑草は自家和合性といって、他の植物個体の花粉が無くても、自分だけで種子をつくることができる。
  他の個体と交配する場合も、特定の昆虫にたよらない。
5 親から遠く離れた場所まで種子を移動させるしくみをもったものが多い。
  タンポポやセイタカアワダチソウは風や水で運び、オナモミやオオバコは人や動物の身体に付着する。
  ヒメシバのように仕組みのないものもある。
6 他の植物の生育を抑えたり、促進させたりすることができる物質をもっているものがある。
  「他感物質」「アレロパシー物質」と呼ばれ研究されている。
  セイタカアワダチソウはこれで他の植物の生育をおさえて大繁殖したが、自家中毒をおこして衰退したといわれている。
  この作用だけで他の植物を枯死させたりはできない。

笠原安夫先生による分類
山野草・・・人間によるかく乱をまぬがれた山や原野で生育。
他の草本植物は人間による影響をうけるところで繁殖。作物は人の手がないと繁殖しない。
帰化植物・・・上の分類基準とは別で、外国から日本に入って住み着いた植物。
集合図の表がのっていた。


第二章 雑草たちの生き様
ツル植物のクズは、条件が許す限りどこまでも体が大きくなる植物の代表。
最初は牧草や緑化植物としてもてはやされたが、あまりに繁殖力が旺盛なので、望まれないところまで繁殖して、
最近は有害雑草といわれている。
クズは1年間に1個体から伸びる茎の総延長が1500メートルになるといわれている。
よじ登るための茎と横に伸びるための茎があり、茎をささえてくれるものがあれば立体的に空間を覆い尽くす。
ヤブガラシやフクソカズラ、アレチウリも同じ。
雑草化が心配される植物でもある。
ダーウィンのツル植物の分類
1支柱の周りにらせん状に巻きつくクズやヘクソカズラ
2モノをふれたときそれをつかむ巻きひげをもつ、ノブドウ、葉柄がねじれて他のものにからみつくセンニンソウ
3鉤の助けをかりて「よりかかる」カナムグラ
4小さい根や根の吸盤などで這い上がるキズタ。
ツルの次に体を大きくさせる能力をもっているのは著者が「陣地拡大型雑草」と呼んでいるもののうち、
多年草のセイタカアワダチソウ、ヨシ、タダリなど。草丈は2メートル。クズほどではないが横にも広がる。
小さな個体でも花を咲かせ種子をつくる雑草。
コンクリートの隙間から映えるヒメムカシヨモギやオオアレチノギク、駐車場のじょりからでているシロザなど。
雑草の中には周囲の環境にあわせて、体の大きさを伸縮自在に変えるものがある。

雑草が生き延びるには人間の干渉に耐えることと、
光・水・養分などの資源を手にいれること。
資源の中でも最も重要なのは光。
出だしで茎を上方に伸ばし、高い位置から地面を覆うことができる雑草が有利。
ただし、葉をひろげすぎると自分の下葉にも光が届かなくなって効率が悪い。
稲はこのため下まで光が届くように短い葉がピンとたつような品種がつくられたが、
雑草にも光があたるため除草剤が必要になった。
侵入雑草としては、ある程度暗くても耐えられないといけない。
そして相手よりも草丈を伸ばす必要がある。
著者の実験では針葉樹の下で育てたツユクサは節間がながく、葉が薄くなったという。
筍のように周りの葉を押しのけて伸びるもの。
オナモミのように相手の葉の間に自分の葉を挿入するもの。
ヒメシバやツユクサのようにある程度暗さに耐えられるものなどがある。

水分をめぐる地下での争いでは、根の広がりや発達の程度、活力などが勝敗をわける。
形や広がりの違いから、直根型、繊維根型、地下茎根型にわけられる。
またどの深さに根を張っているかも重要。
水によくとける窒素は植物体に吸収されやすく、もっとも競争がおこりやすい。

種子を作って子孫を増やす有性繁殖だけでなく
地下茎や根が切断されたり、ムカゴを作って(クローンと同じ)仲間を増やすものも多い。
ラメット・・・遺伝的に同じ個体。
種子の役目
1 遠くに移動できる。
2 芽生えるとき種子の養分で発芽できる
3 生体では生存できない環境をやり過ごすことができる。
種子の形態を散布の仕方で5つにわけた図がのっていた。
一次休眠・・・できて間もない新しい種子が好適な環境条件におかれても発芽してこない場合。種子の胚が未熟な場合と胚を取り巻く種皮、果皮、胚乳などに原因があるものにわけられる。
二次休眠・・・一度休眠からさめたが、酸素不足や炭酸ガス濃度他界など、不適切な条件がつづいているので、再び休眠状態にはいっているもの。不適切な条件がなくなってもすぐには発芽しない。
雑草の種子は二次休眠を示すものが多く、雑草が繁茂した後の土地には埋土種子集団がある。
著者が北海道の畑で調べたとき、種子数は1㎡あたり1000~1万6000個と場所によってかなりちがったという。
作物の埋土種子は牧草類をのぞくと1年以内に死滅するが、雑草は長く生き残るものが多い。

第3章 侵入雑草の陣取り戦術
種子を散布するほかは移動スダンがない雑草にとって、自分のすみか=陣地を築き上げ、拡大することは切実。
裸の土地=裸地に生えたなら気候条件や土地の持つ資源が許すが切り、その雑草に特徴的な形をしめしながら成長する。
観察になる対象雑草がどのくらい大きくなるかで、大型雑草=作物と草丈が同じかさらに大きくなる。
小型雑草はそこまでおおきくならないに分類する。
雑草の姿かたち6種類
直立型(センダングサなど)、分枝型(オランダミミナグサ)、そう生型(オヒシバ)、ツル型(クズなど)、ほふく型(ヤブヘビイチゴ)、ロゼット型(オオバコ)
季節で形を変えるヒメジョオンのようなものもある=冬はロゼット、春は直立。
著者はこの方法ではなく、外から侵入してきた雑草が陣地を築き上げるしかたから生育型を見直し
陣地強化型と、陣地拡大型という分類を考えた。

陣地強化を得意とするブタクサやエゾノギシギシ、ススキは、定着した場所で立体的に葉を広げ、その場所を完全に占拠する。光不足で下の葉が枯れあがらない範囲で何層にもわたって葉を広げる。
だから他の植物が陣地に入り込むのは難しい。しかし種子を作る前に光の競争にまけてしまうと、その個体は永久に子孫が作れなくなる。
陣地拡大を得意とするのは、オオジシバリ、シバ、ムラサキサギゴケなど。立体的にではなく平面的に広げていく。
地下茎やほふく茎を使って周囲のさまざまな環境条件にさらされた土地へ進出していく。
いきあたった好ましい条件の土地で光合成をおこない生存していく。
陣地拡大型の雑草の葉の広げ方は他の植物との競争には弱いが、出発点で競争にまけても、他の地点で生存し続けることが可能。
まわりの環境条件によって、大きさだけでなく姿かたちまで容易に変えてしまうグループを「使い分け型」とした。メヒシバ、ツユクサなど。
多年生雑草のセイタカアワダチソウやチガヤは、草丈2メートルの陣地強化型でありながら、
地下茎によって周囲に広がる陣地拡大型でもある、やっかいな雑草。
3つの型に大小があわさって6つのグループに分類していた。

広い空間の大部分をしめる雑草を優占種という。
作物を作っていない畑や都市再開発の途中で生じた工場跡地など、まったく植物の生えていない空間には、
まず風散布型の種子をもつヒメジョオンやオオアレチノギク、ブタクサなど大型陣地強化型の一年生雑草が優占する。
つぎに優占していくるのは地下部に養分をたくわえることができる多年生雑草。
この多年生雑草がススキ=株を作るそう生型で陣地強化型の場合は、かなり多くの他の植物たちと生活するが、
セイタカアワダチソウ=大型陣地強化ー拡大型である場合は、それほど種類は見つからない。
その理由について著者は
1 多数の種子を風で飛ばすススキは大株と大株の間に隙間ができる。ススキほど光を必要としない植物なら十分生育できる。
  セイタカアワダチソウは地下茎で周囲に広がる一方で非常に効率的に光をキャッチできるように葉を広げる。このため他の雑草は生育できず、つる雑草のみが生き残っている場合が多い。
2 大型雑草の落葉や落枝がつもり(大型なのでかなりの量がある)他の植物の定着が押さえられる。セイタカアワダチソウの場合はアレロパシー物質も含まれる。
3 ススキは昔から人間が利用したりして刈り取ってきた。今でも刈り取りをしているところがある。刈り取りをするとセイタカアワダチソウの群落でも他の植物が増える。つまり人間が裸地空間=ギャップをつくることで優占雑草と他の仲間を共存させることができる。
  
人間や動物の場合と植物ではかなり陣取り合戦が違う。
植物の特徴は固着性の生きものであるということ。
陣地拡大型以外は、種子を散布する方法=落下傘部隊でしか敵陣に侵入できない。
ただし、支援部隊はこないので、まずギャップが敵陣内に存在しないと自分の陣地が築けない。
人間が無意識につくりだしている空間が雑草の繁栄をもたらしている。
人間の息のかからなかったところではほとんど雑草をみかけない。
雑草が新たに陣地をきずきあげられるのは、自分の周囲、何も植物の生えていない裸地、敵陣内のギャップ
ギャップの形成は人間のかかわりと陣地を作り上げてきた優占種のすがた形や生きざまに左右される。
畑や水田では作物のために個体の間にギャップがあるので雑草が発生する。
そして雑草を抜いたり除草剤をまくと、あとからくる雑草のためにギャップをつくっているという意味にもなる。

著者が調査した草地のギャップにおける侵入雑草との関係では、
草地で地上部を刈り取ると必ずギャップができるが、普通は草地の植物の葉の成長が早いので、雑草が侵入できない。
侵入雑草の陣地になるギャップは、刈り取り機や収草機の取り扱いミスや家畜の放牧頭数が多すぎる場合や、不適切な管理で牧草が病気にかかったり、害虫が発生した場合、ミミズ・モグラ・げっ歯類の穴によるもの。
マメ科の城クローバーが優占する草地は雑草が多いが、これは草丈が短いので、エゾノギシギシなどの大型雑草が侵入すると、それらの陣地になりやすいためである。
イネ科のリードカナリーグラスでは地下茎があるので、刈り取られても再生できる。そのため管理がずさんでも影響をうけにくく、大きなギャップができにくい。
日本の草地で一番問題になっているヨーロッパ産のエゾノギシギシである。
著者がわざと草地にギャップをつくって、エゾノギシギシを植えた実験でも
リードカナリーグラスの草地では侵入できなかったという。


第4章 作物と雑草たちの関係
日本では雑草は抜くもので、防除方法を研究するものではなかった。
明治時代の中ごろまでは、四つん這いになって、素手で稲の株間を埋め尽くす雑草を抜いていた。
明治25年位やっと中耕除草機が発明され、立ったまま除草が可能になった。
第二次世界痰戦後、除草剤がはいってきて、1960年代には土壌処理剤が使われるようになる。
このため問題雑草はほぼ10年周期で変わっている。
耕作地の雑草は作物に害を及ぼす潜在的な能力をもっているが、その能力が発揮されるかは別。
有害な雑草はそれほど多くないし、存在していても作物に害がないように抑えてやればよい。
そして経済的に見合ったやりかたで雑草を制御するのが雑草管理。

雑草が作物に害を及ぼす場合は、侵入雑草が作物の光や水や養分を奪うこと。
セイタカアワダチソウなどの場合は他感物質で作物の生育を抑えていると考えられている。
しかし他感物質については、作物ごとに影響も違うし、他感物質が空気中や土壌にたまかも環境で違う。
他感物質だけで、作物が枯れることはない(芽生えは別)と考えられている。
現在はこの他感物質を他の雑草の生育を抑えるのに役立てる研究が盛ん。

農民は作物を収穫して利益を得る。
雑草が生えても収穫量が影響されないなら除草する必要はない。
除草剤は著者も抵抗があるが、昔より分解しやすく毒性が弱くなっているので、正しく使えばよいと考えている。
雑草が生えていても問題にならない量=許容限界量の研究をつづけ、雑草の害を予測する技術を確立したり、
有機農法家の使っているカブトエビやアイガモなどの生物的雑草管理法なども体系的に研究していく必要がある。
農家が雑草は除去するものと思っている考えもあらためるべき。


ジョゼフ・コカヌア「土と雑草」によると
雑草に土地を肥やす役割があるといっている(シロザやブタクサといった根を土中深く張ることができるもの)
どうしても必要なとき以外除草しないのが雑草管理の鉄則。管理された雑草が作物を妨害することはない。
新山恒夫と沼田真の陸稲の研究では、完全に雑草をとった区より、許容限界まで雑草を捕らない区のほうが収穫量が多かった。
ギャップ面積がせばまり、作物と雑草が競い合うようになるまえが限界点。
許容限界の研究は続いているが、今のところ条件(下記)が多すぎて、農の達人のカンと経験に頼る以外にない。
・侵入してくる雑草の生育型
・作物の種類
・単位面積あたりに生えている作物の数
・作物を植え付けた時期
・肥料の量
・毎年変わる気候条件


第5章 ただの草か、ただならぬ草か
著者が実験を行って分かった、雑草をはやすことで侵入する雑草を抑える方法の紹介。
草地のなかに雑草が混ざっていた方が、他の雑草の侵入を抑えることができる例。
除草剤をまいたギャップより、一定の高さで刈り取られた田のあぜなどの雑草の方が他の雑草の侵入を抑えられる。
中国の半乾燥地で行った調査では、家畜の放牧によって雑草が食べつくされているが、とげのある植物や有害植物といわれるものは残っていることがわかった。そこに他の雑草の種子をまくことで、家畜から植物を守れるといっていた。
与那国島で浸食における耐塩性雑草の役割を調査したときには、耐塩性といえども海岸部では生育が悪く土壌の浸食をくいとめる役には立たないこと(防風林がよい)草地に使われいるコウライシバと共存できて、土壌の浸食を抑える雑草があることなどをつきとめたという。


第6章 陣取り合戦を観察するために
合戦の様子を自分で観察する方法。
雑草の名前を覚える。
採集と標本の方法
どの植物化同定する方法
観察を始める前に目的の群落とその周辺の環境を広く見渡す。
いくつかの地区にわけ、10以上の調査点をつくる。
地点の大きさは雑草の種類から決める。普通は1メートルの正方枠
枠内の雑草のしめる割合を調べる(種別)、草丈は最大のものを計る。
植物が失われたあとにおこる二次遷移を観察する方法。
ギャップは写真をとってコンピュータ画像で解析するが、スケッチで数や形を調べることもできる
埋土種子を調べる土壌採取の方法、土をもっていって発芽実験をする。
データのとりまとめ方法


雑草たちの陣取り合戦―身近な自然のしくみをときあかす (自然とともに)

雑草たちの陣取り合戦―身近な自然のしくみをときあかす (自然とともに)

  • 作者: 根本 正之
  • 出版社/メーカー: 小峰書店
  • 発売日: 2004/11
  • メディア: 単行本



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