数学・統計学を教える大学講師が小学生向けに書いた算数パラドックスの本
「キサラギ」「ヤヨイ」「シモツキ」の小学生3人と全能博士がパラドックス探偵団となり、
学校新聞友の会ホームページやメールで来る依頼を解き明かす話。
あとがきで解説がしてある。

第1話 なぞのテレポート現象

N町では<謎のテレポート現象><見えないどろぼう><奇獣がでたぞ>という事件がおきている。
博士と三人はさっそく町にむかって話をきく
<謎のテレポート現象>ある山を登っていると、山頂あたりつくときりがでてきて気が付くと麓にいるという現象がおこる。
 探偵団は山に登ってみる、4キロの道のりを2時間で山頂についた。
 ここで博士が平均時速を求めされせると時速2キロとなる。
 では、くだりは平均時速が早くなるだろうから、平均時速6キロでおりるとしよう。
 すると登と下りの時速の平均は時速4キロになる。
 時速4キロで上り下りの距離8キロ(4キロ×2)を歩くと、2時間になり、上りの時間で麓までおりたことになってしまう。
 これがテレポート現象。

<見えないどろうぼう>
 隣り合う2件のせんべい店がいっしょに商売をすることにした。
 1軒は2枚で50円でせんべいを売り、他方は3枚で50円で売っていた。
 いっしょになったので、くみあわせて、5枚で100円で商売をしていたが、売り上げが減っているのだという。
 両方とも一日30枚売り上げたとすると、その合計は30÷2×50+30÷3×50=1250円。
 でも一緒に60枚売り上げると、60÷5×100=1200円
 これがみえないどろうぼう

<奇獣>
 頭が豚で体が牛で長くひろがった羽根のしっぽをもっている。
 動物の平均だと奇獣になるよね。

この町の事件は「まちがった平均の使い方」にある。


第2話 砂の本
 友達が読んでいたらいなくなってしまったという「砂の本」がパラドックス探偵団におくられてくる。
 どうやらいなくなったマイちゃんは本のなかにいるらしい、キサラギが一人で本をよんで本のなかに入って助けようとする。
 本の中では悪魔がでてきて、「先攻のお前が10より小さい数をいう、そのあと後攻の自分が10より小さくて、おまのいった数とちがう数をいう、そして大きい数をいったほうが勝ち、勝ったら返してやる」という。
 キサラギはどんな数をいっても、相手が(その数+10)÷2をいったら、相手の勝ちという後攻必勝ゲームだと気が付く。
 するとキサラギのポケベルに博士から「9.9999・・・」というメッセージが届く。
 キサラギが「9.9999・・・ずっと9のぞろ目」というと、悪魔はキサラギと同じ数しかいえないので、キサラギが勝利する。


第3話 いそがしい人々
ホームページを見ていた探偵団はJ町でおきている事件をしり、調査に向かう。
その最中シモツキの時計をヤヨイが破壊してヒビをいれるという事件が発生。
駅前で博士と一旦別れた3人は博士からお金をもらってレストランで食事をする。
3000円だったので、一人1000円ずつだして店を出ようとすると、
ウェイトレスがやってきて、勘定が間違っていたと100円ずつ返してくれる。
博士に100円ずつ返すと、博士がいうにはレジ係は2500円だったのに気が付いて500円返したが、
ウェイトレスは500円では3人でわけれないと、自分が200円とって、100円ずつ返したのだと教えてくれる。
一人900円ずつはらったので2700円+ウェイトレスの200円で2900円。100円足りない。
実は3人が払った2700円=レストランがもらったお金(2500)+ウェイトレスがもらったお金(200)が正解。

<勉強の時間がない>
 町の子どもによると、他の町の子どもと変わらない生活をしているのに、勉強する時間がなくて学力がおちているという。
 話をきいた博士の計算は、
  1日8時間寝るので、121日は寝ている。
  日曜は学校にいかないので52日とりのぞく
  土曜は半日だから26日なくなる
 と計算していくと、345日なくなってしまう計算に。レストランと同じ足し算の仕組みのパラドックス。

<町に商品があふれる、驚異の好景気>
 博士の説明によると100万円あって、パンを買うとする。
 パン屋はその100万円で魚を買った。
 魚屋はその100万円で家具を買った。
 家具屋は音楽家に100万円払った。それが博士だった。
 すると同じ100万円なのに売り上げの合計は400万円。
 ぐるぐるを繰り返すと売り上げの合計はどんどん大きくなるという仕組みで好景気になると説明。


第4話 永久の町
シモツキが海でおぼれかけてみた夢の話。

見知らぬ町をさまよっていると、みな仕事をしていない。
聞くとなんでも無料でもらえるので働く必要がないという。
工場は永久に回転する機械(台の斜面に左側は4個、右側は3個の重りがあるのでいつまでも玉は左に回転するという)で動いている。
バスは前方が斜面になっていて床下に水銀(重い液体)がはいっており、後ろの壁にかかる平均圧力は弱く、前方の圧力は強いので前進するという仕組みで動いているので運賃はただ。
ジュースの自販機もただ、電気を使わずにジュースを温めたり冷やしたりしている。中をあけると悪魔が空気の冷たい部分と温かい部分をよりわけている。そしてその悪魔が人々の魂を食べているといわれたところで目がさめた。

あとがきで、ものを動かす力の実体は、もとになる力を動く方向とそれと直角をなす方向に分解して見出さなければならないと解説していた。


第5話 ひねくれた理屈
クラスに屁理屈をいって、授業を妨害するやつがいて困っているというメールを受け取った探偵団はさっそくその学校に向かう。
妨害していたのはタケシという男の子で勉強もできるらしく、分数の割り算なんてひっくり返してかければいいだけだけど、
それが何かの役にたつのかと先生を困らせているところだった。
そこで博士が特別授業をすると教壇にたった。
「次の2時間目から6時間目の間に必ずテストをする。何時間目にテストがあるか君たちには予測不可能だ」という。
休み時間になるとタケシが、「6時間目だとすると、5時間目が終わった時に予測できる、だから6時間目じゃない」
そして「5時間目なら4時間目が終わったときわかるので、5時間目じゃない」と推理して、
「テストできる時間はない」と結論づける。
しかし博士は2時間目にテストをするといいだし、抗議するタケシに、「予測できなかったろう」という。
そして、教室の子ども達がタケシをバカにしようとしたのを止めると、頭の良さは、人を困らすより、喜ばせるために使うようにと諭す。


第6話 とどかないボール
M町にある学校で、投げたボールが相手に届かないという事態が発生しているという。
さっそく探偵団が現場に向かう。
ついてみると野球チームがキャッチボールをしているが、球は進んでいるのに、いつまでも相手に届かない。
話をきくと、1か月くらい前からときどきおきているという。
ヤヨイが観察するとボールはよくみえているときと、みえていないときがある。
博士によると、相手に届く半分の距離までよくみえて、そのあと見えなくなり、その後半分の半分まで進むと見えるという風になっているという。
シモツキが「ボールは無限回半分の切り替わり地点を通るので、いつまでも最終地点に届かないのだ」と気が付く
しかしキサラギは「無限回の切り替わりがあっても、着かないという結論にはならない、なぜなら問題にしているのは回数ではなく時間だから」と気が付く。
博士が時間を主役にして計算すると、半分まで行く時間を1秒とすると
T(届くまでの時間)=1+1/2+1/4+1/8+・・・・
この結果Tを2倍すると、2T=2+1+1/2+1/4+1/8・・・・・となる。
1+1/2+1/4+1/8・・・・=Tなので、2T=2+Tつまり、無限の足し算でも答えは2秒になる。
しかし、到着するときよく見えているか、それともいないのかはわからない。
博士は目標をキャッチボールする相手までの距離の2倍にすると、とりあえず練習できると教えていた。


第7話 仲の悪い町(前篇)
L町の小学生からメールが届き「となり町と仲が悪く、今にも乱闘さわぎがおきそうなので、原因をつきとめてほしい」という。
探偵団はさっそく町にむかった。
小学生によると「L町とK町は前からいがみあっていて、武器を揃えてケンカの訓練をしている。だれにもとまられない。仲良くした方が得なはずなのに」という。
全能博士は両方の町の町長を読んで話をきくことにした。
両方とも、こっちが武装をやめると、相手が得してこちらは大損だという。
ここで博士が、両方の町は「仲良し作戦」と「けんか」作戦をとれる、
両方が「仲良し」なら利益はそれぞれ8、「けんか」ならそれぞれ3、片方が「仲良し」片方が「けんか」だと、
「けんか」は11、「仲良し」は利益0とするという。
これをヤヨイが表にする、すると両方の利益が最大になるのは8+8=16で両方が「仲良し」のときだとわかる。
ここでキサラギが、相手がどちらの作戦できても、自分の町の利益をおおきくするのなら「けんか」がよいのだと気が付く。
だから両方の町ともに自分の利益を考えて「けんか」作戦をとっているのだと気が付く。
しかし、双方が「けんか」だと両方に利益が少ないということになる。


第8話 仲の悪い町(後編)
博士は、みんなの利益のために「仲良し」作戦をとってはどうかと両方の町長にいうが、両方ともに相手が信用できないという。
そこで、表の利益はそのままで、無限回対戦すると仮定してみた。
さらに先ででる利益は割り引いて考えることにする。すると
両方が仲良しを出し続けた利益は8+8/2+8/4+8/8・・・・=8+8(1/2+1/4+1/8・・・・)=16(届かないボール事件から)
もしどちらかが裏切って「けんか」をだすと、1度だけ利益は11になるが、以降は利益は3以下になるので
11+3/2+3/4+3/8・・・・=11+3(1/2+1/4+1/8・・・・)=14
つまり仲良しをしているほうが利益が多いことになると説明。
両方の町長は納得して仲直りした。

ゲーム理論の囚人のジレンマと同じ理屈。終わりがないと後帰納法が使えないので、ジレンマからの脱出ができる。



ミステリーな算数 (パラドックス事件簿)

  • 作者: 小島 寛之
  • 出版社/メーカー: 小峰書店
  • 発売日: 1999/08
  • メディア: 単行本