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リスク〈上〉〈下〉―神々への反逆 [ビジネス]

今日ではリスク計算し、未来を予測するのは普通のことに思える。しかし、このような考えは比較的あたらしいもので、人類がリスクに対しておこなってきたのは長い間「神に祈る」ことだった。しかし、いまでは人々はリスクを飼いならし、それを未来予測に使おうとしている。人類のリスクに対する考えの転換期はいつだったのか?

古代からギャンブルはあったし、0の概念はインドで生まれ、数字、計算はアラビアで発達したが、ギャンブルから確率論が立ち上がるのはルネッサンス以後である。数学は天文学や商業とともに発達していった。

825年前後四則演算を確立したアル・フワーリズミー(今日のアルゴリズムの語源)、彼は代数方程式についても解説している

1050年生まれのオマル・ハイヤームは計算言語をつくり、数字を3角形に配置する方法を考案した。この方法でより高次の代数方程式がとけるようになった。

アラビア数学はそれ自体が発達したが、まだ、リスクや確率論については言及していない。
1202年のレオナルド・ピサーノ(フィボナッチ)の「リアル・アバッキ」をあげている。この本は理論だけでなくその例題が数学の新たなる可能性を切り開いたと紹介している。つまり金利の計算や物量単位の計算が解説されていたのだそうだ。フィボナッチ数列も彼の発見で、これは黄金比として経験的にしられていたもの。

また、数字自体も書き換えが容易だという理由で1500年ごろまで普及していなかったらしい。使っていたのは文字数字。印刷技術の発達でこの問題は解決し、使いやすい数字体系(0-9をつかうもの)は普及していく

1494フランチェスコ会の修道士ルカ・パチョーリ「算術・幾何および比例大全」には複式簿記の方法が包括的に解説されていた。これは経済に重大な影響を与える。レオナルド・ダ・ヴィンチとは同時代で親交があった。
フィボナッチが出した問題。「ゲームの途中で掛金を分配するとき、どのように分ければ公平か?」後に得点問題とよばれるものは、将来を確率で予測する方法を考えるきっかけになった。

ルネッサンスは事象を観察し、実証する時代である。それまで正確さというものは現実世界にはなく実験では確かめられないと思われていたのが変わったのである。
そして、ギャンブルに確率論を持ち込むものがでる。16世紀ジロラモ・カルダーノという医者は「偶然のゲームの書」という本で、統計的に確率にアプローチしている。しかしまだ、ランダム性については明らかにされてはいない。彼は数学者でもあり2次方程式、3次方程式、負の平方根などにとりくんだ。

確率には2つの意味があり、将来を見通すということと、過去を解釈するという意味である。
統計的に過去をつみあげ、どの目がどのくらいでやすいか調べることはできる。しかしそれは将来の結果を確定しない。不確実性がある。このことについてはガリレオもカルダーノと同様の研究結果を残している。

17世紀に3人のフランス人がギャンブルと得点問題から、確率論を発展させ、将来事象の確率を計算する体系的方法の手前まできていた。3人とはブレーズ・パスカル(パンセの著者数学者で哲学者)、ピエール・ド・フェルマ(法律家で数学は趣味、フェルマの最終定理)シュヴァリエ・ド・メレ(貴族でギャンブル好きから数学に興味をもった)パスカルの数学的天才とフェルマの博識とメレの直観力で、3人は確率論から未来を予測する一歩手前までいっている。また、パスカルが援助していたポール・ロワイヤル修道院から「論理学、思考の芸術」が出版され、このなかで、コイン投げゲームが解説され、そこでは、「9枚のコインを獲得するために、自分の1枚のコインを失う確率は9倍ある」の一文があり、これは期待効用仮説に通じるものといっている。

リスク計測のもう一つの重要な要素、サンプリングと統計は、1279年に行われた「ピクスの裁判」にさかのぼる。
1662年にジョン・グランドが「死亡調書の自然的および政治的観察」があらわされ、死亡調書を詳細に調べることにより、人口や世帯数までもわりだそうとした。彼は統計学というものを生み出したのだ。さらに現在の年齢の人があと何年いきるか推定する表もつくった。これは保険の基礎となる。もっとも、死亡調書のデータは不完全なものもあり、自分の推定がその上にある不完全なものであることも気がついていた。特にロンドンは人口の流入が激しいことが最大の問題だった。彗星で有名なハレーは、ドイツのちいさな人口の流入出がほとんどない町でグランドと同様の研究をおこない、平均余命=生命表をしらべた。年金を資金繰りに使いたい政府はこの生命表を使うことになる。統計をとり、その平均値、観測地の独立性、正常性の概念などがでそろった。
しかし、当時まだ保険業はなかった。リスクの分散はヴェニスの商人ももっていたし、互助的な仕組みもあった。しかし、統計や確率と保険が結びつき保険産業がうまれるのはもっとあとである。

18世紀にはいり、宗教戦争のあとの人間の合理性がもてはやされる時代。学者一家にうまれた数学者ダニエル・ベルヌーイは「リスク測定の新理論の展開」を表す。これは期待効用理論にふれたもので、得られる富の満足度は、それまでもっていた富の量と反比例する」というもの、それから確実に得られる価値とある確率で得られるものの金額が変わっていったとき、人が確率に乗り換える金額がその人のリスク回避度であり、確実性等価である。ベルヌーイは結果が不確かなときの意思決定について合理的な人間がどのように計測と本能を使うかを述べた。しかし今日では合理的経済理論は否定されていることもある。

ダニエル・ベルヌーイのおじヤコブ・ベルヌーイは標本データをいかにして確率に展開するか問題提起した。現実の世界では情報は限られていて、われわれは全ての情報を集めることはできない。われわれは得られた情報のなかで事後的に未来を予測する。ヤコブ・ベルヌーイの定理は「大数の法則」といわれている。しかし、大数の法則はライプニッツが指摘するように、観察数を増やせば事後的な事象から未来を予測できるものではない。ヤコブの研究をうけついだニコラウスは観察数を所与として観察値が特定の範囲内におちる確率を計算した。ド・モアヴルはこれを発展させ、ランダムな事象が平均値の周りにどのように分布するかを示した釣鐘型曲線=正規分布を導きだした。
ベイズとプライスはそこから、不確実性を計測するという考えをしめした。つまりある事象の分布が知られているときに、ある事象が起こる確率をもとめるのだ。

リスクの計算は正確さではなく誤差をもとめていくことになる。われわれは決して正しい解答をもとめられない。重要なのは分布と誤差から正確な答えを見つけることである。ガウスはたくさんの観測値から正確と思われる値を求める方法を示した。ところで株式市場は正規分布なのかは今でも議論されている。大事なのは正規分布にあてはまるときと、そうでないときの区別をつけることだといっている。

フランシス・ゴールドンは測定することの対して異常なほどの情熱を持っていた。また優性遺伝を証明しようという強い望みがあった。ケトレーはゴールドンより前の人物で、なんにでも正規分布の曲線をあてはめる人物であったようで、ときにデーター掘り(データを捻じ曲げれば数字はいくらでも都合のいい結果をだす)にはまることもあったようだ。ケトレーの研究に心酔したゴールドンは、遺伝についてさまざまな実験をした。その結果、それぞれの集団で正規分布があるということが発見された。つまり、最初の集団で優秀な人の子孫はそのなかで正規分布するために、母集団より優秀な人が少なくなり、結局平均へ回帰していく。

「平均への回帰」は自然のなかではおおむねうまくいく。しかし、人間の意思決定がからむ市場ではこの限りではない。それは「平均への回帰」は非常に緩慢にしか作用しないために、突発的な出来事がそのプロセスを破壊してしまうこと。回帰があまりに強いと一旦平均へおちついても、行き過ぎてしまうこと。この二つのためである。だから市場は短期的にはほとんど「平均への回帰」がはたらかず、予測不能なランダム・ウォークに見える。しかし時間軸を長期に変えると「平均への回帰」が働いているように見える。バーナード・バルーク、ベンジャミン・グレアム、ウォーレン・バフェットらはこの方法で富を築いた。しかしそれでも「平均への回帰」を過度に過信するのは危険である。実際の社会では平均が動いたりすることもあるのだ。

19世紀にはベルヌーイの効用理論が価格形成に使われ、それは需要と供給の法則に発展していく。ただし、損失の検討はほとんどおこなわれていない。社会科学に自然科学を取り入れて一般化していくという試みがおこなわれ、それが可能だと信じられた。ジェオンズの景気循環理論は自然からの影響が経済に影響するという仮説を立てた。人間の意思決定に関する理論はおきざりにされたままだった。

リスク管理とはある程度結果を制御できる範囲を拡大する一方で、結果に対してまったく制御がおよばず、結果と原因の因果関係が明らかでない領域を最小化することである。
われわれは因果関係のある世界に生きているが、すべての情報を得ることはできないので、断片的な情報から帰納的な推論にたより確率の推測に頼らなければならない。19世紀の科学がやがてすべてを解き明かすという楽観主義から、世界恐慌を経て市場は完璧ではなく、正規分布曲線のあてはまらない不確実な事象がたびたび起こることがわかってきた。不確実性の程度が問題であり、人は不確実性のもとでどのような意思決定をおこなうかが問われるようになったのである。

不確実性のもとでの意思決定に関する研究をすすめたのは、フランク・ナイトとジョン・メイナード・ケインズであった。ケインズは人間の意思決定に不確実性があることを指摘し、ナイトは不確実性を人間の意思決定やリスク計測に使おうとした。それまではアダム・スミスの唱える「神の手」によって市場は完全とされていたが、世界恐慌がそれを覆し、人々は市場が正規分布と景気循環理論だけでなりたっているのではないと知った。しかし、確率法則だけでなりたった世界は未来がすべて予測できる社会で、それもつまらないのでは?われわれは意志により未来をかえられるのだ。

不確実性をリスクと意思決定に使うゲーム理論は、ジョン・フォン・ノイマンとモルゲンシュテインによって発表された。複数の人間の意思決定のもとで各人が自分の効用を最大化しようとする場合うを述べたこの理論は数学として出発し、経済のほかに生物学などにも応用されている。ナッシュ均衡はゲーム理論の中で各プレーヤーが自分の効用を最大化しようとしたときに取りうるもっとも良い状態(一番良い状態ではない)が成り立つことを証明したもの。ゲーム理論は数学を社会分析の支配者にしようという野望もあった。この理論でまたしても人間の行動が数学的に一般化できる、すなわちリスクも計算できるのではという期待をもたらすものだった。

ハリー・マーコヴィッツは「ポートフォリオ理論」をうちたてたが、それはより少ないリスクで最大の効用を得るためには、個別銘柄を保有するのではなく複数の銘柄に分散投資するのがよいということだ。ポートフォリオのボラティリティは個々の証券のボラティリティより小さくなり、リスクが小さくなるのである。マーコヴィッツはリスクを数値化した。また、シャープとの共同研究で、個別銘柄の分散の程度を測定する方法(CAPM)も考えだした。

ノイマンやベルヌーイの考えたモデルの人間は合理的経済人とよばれるものである。この人間の基準は期待値を最大化することだけである。しかし、人間にとって効用はそれぞれ異なる。ここに光をあてた研究が生まれる。
カーネマンとトヴォスキーのうちだした「プロスペクト理論」は人は利益は確実にしたがり、損失は回避したがる(ギャンブルになりやすい)ということをあきらかにした。これは人間が常に期待値に基づいた判断をしないことを示していた。これ以降人間の感情が意思決定にあたえる影響の研究がなされていく。ただ、人間が実験対象なだけに母集団の偏りや実験結果の評価方法などに問題があることが指摘されている。ただわれわれの普段の行動が経済的合理人からは程遠いことはあきらかなようだ。

「行動ファイナンス」は合理性と感情の間をいきかう人間の行動を明らかにすることによって、合理的ファイナンスの欠陥をうめようとするもの。「意思決定の後悔」「賦与効果」などわれわれが感情にながされて合理的に判断しない場合やそれがどのくらいおこるかで、経済を説明したり予測しようとしたりする試み。

ディリバティブはリスク回避方法として考えだされ、先物とオプションがある。もともとは作物など収穫量がきまっていないものをある一定の価格で買い上げる契約をむすぶことにより、生産者には収入の保証を、買い上げるほうは値上がりに対するリスクを軽減するいみがあったが、今日ではありとあらゆるものに使われている。しかし過度にリスクを避けようとすることは、結局他のリスクを引き起こすことがわかってきた。オプション取引で外貨変動による利益減少から身をまもろうとする企業の行動が為替変動をひきおこしたり、過去のリスク計算から導かれた理論による売買が破綻したり(たいていは過去とは違った事態がおきる)している。

最自然は回帰するがすべてではない。まして人間の世界では回帰はもっとすくない。もっともだからこそ、変化や進歩があるのだが。人間の社会では不確実性、不連続性、不規則性、ボラティリティの増大がすすんでいるようにみえる。偶然の支配から社会を解放することはできそうもないようにみえる。
重要なのは合理性にたより、確率と正規分布と平均への回帰をもちいるべきときと、不確実性のもとに人々がみな合理的な判断をしていないときを見分けて使うことでないか?


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