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数学的思考の技術 (ベスト新書) [雑学]

数学的思考とは「数学っぽく、ものを見て、数学っぽく、ものを考える」こと。

第1部 不安定な毎日を生き抜くための数学的思考
○相手を自分の思い通りに動かすには
相手の手の内をよんで戦略をたてることで世の中は面白くなる。
裁量・・・その場で臨機応変に判断を下す
ルール・・事前にきまっている
「ある時点では最善」だが、「時間がたつと最善でなくなる」ことを「動的不整合性」という。
例 先生の目的・・・生徒がちゃんと勉強すること
 テストをするぞといって脅して勉強させようとする。勉強していればテストは必要ない。むしろ楽。しかし生徒に「テストをするのは先生にとって手間」とよまれると生徒は「テストはない」と勉強しない。このようなときは選択肢をすててしまう(先手をとる)ことが有効。テストをするとプリントにして家庭に配ってしまえば、ちゃんと勉強した生徒にテストをするというコストは払うが、この方が生徒に勉強させるという目的にかなう。
動的不整合性から脱出するもうひとつの方法はルールを設定すること。後の裁量権をすてることで先手をとる。
あとで決めるのが好きな人は先手をとられているよ。

この構造がインフレ政策でも使われると、政策が意味をなさなくなる。国民が「景気がよくなって雇用が回復したらインフレ政策は回避される」と先読みするから。
そうなると、政府はインフレ目標などのルールをつくり回避しようとするが、すでに景気が堅調になっても目標が達成されるまで、インフレ政策が続行されるという、勉強した生徒にテストするコストみたいなものが発生する。

○給料があがらないのはなぜか
固定給は、業績の変化はすべて経営者がかぶるという約束。
人間にはリスクを好む人と好まない人、中立的な人がいる。
社員はリスク回避で、経営者がリスク中立なら固定給がもっとも合理的な雇用契約。
ボーナスは社員をまじめに働かせるための仕組み。
社員ががんばったかは本人しかわからない。情報の非対称性という。
人の持っている指摘情報をあらわにするのは高くつく。
日本の終身雇用・年功序列はリスクシェアリング。ボーナス制度は給与の一部に成果主義をいれてやるきを合理的に引き出している。
ただし、このようなシステムが社会全体にとってよいかは別問題。

○人に本音をいわせるテクニック
私的情報を戦略的に利用してずるく立ち回ることをしないような適切な契約をつくることを経済学では「メカニズム・デザイン」という。
正直に価値を申告しない現象は「ただ乗り=フリーライダー問題」と呼ばれる。
職場で加湿器を買うという例で、相手の本音を引き出す方法を解説。人に本音をいわせるには調整役がポケットマネーを出す必要がある!人に本音をいわせるには非常に大きいコストを要するのだ。

○だらしない人の経済学
合理性を逸した借金をしてしまう人々はどうして生まれるのか?
人間の行動が実行直前になると前にきめていたこととは違ってしまう→時間不整合
時間割引率・・・時間的にずれて手に入る二つの利益を共通の価値尺度で比較するための方法。これは個人で違う。
指数割引・・・5年後と6年後について判断すべき現在の問題が、5年の歳月がたって「今年と来年について判断すべき問題」になってもなんら変更がないこと。
双曲割引・・・何年先かの価値かによって異なる時間割引率を使うこと。
双曲割引をもっているひとは一貫性のないだらしない行動をする可能性が高い。
例 10万円借りて再来年15万円返すローン。
だなしない人の、来年の利益は0.6をかけて割り引く、それ以降は0.8をかけて割り引く。
今現在は、10万円の来年の価値は6万円。再来年の15万の価値は7.2万円なので借りない。
でも、来年になったら? 来年返済する15万円の価値は9万円になるので、現在の10万円の方が価値が高くなる。で、借りてしまう。一貫性がない。
こうした人は嫌なことは後回しにして目先の快楽にとびつく、夏休みの宿題を後回しにするタイプ。多重債務者は根拠のない自信家が多く、ローンの知識に自信があると回答するが、実際に上限金利の質問をすると間違っていることが多い。
消費者ローンは責任能力が十分ない人のために制限されるべきかも。

○年金問題を数学から考える
賦課方式の年金問題の本質は無限ホテルと同じ。決して破たんしないネズミ講。しかし人口が減少したら破たんする。
第一世代は保険料を納めないで済むので制度はみとめられやすい。
もし、途中で中止したら、だれかがホテルを追い出されてしまう。

○協力って、大事?
ライアーゲームを例にゲーム理論解説。
協力ゲームとは、集団の中の部分的なグループが提携すれば、固有の利益が発生する構造になっているようなゲーム。解くべき問題は「全員提携で発生する利益を誰にどれだけ分配するか」集団を仕切るのが下手な人は、部分的な利益構造の機微をきちんと理解していないからと思われる。
ソロでもユニットでも稼げるロックバンドの例で解をだしながら解説。
商品の売買も協力ゲームと考えることができる経済学が想定している市場価格取引というおは、社会全体の協力ゲームのコア=解を達成すること。
利益構造の出来が悪いと。コアが原理的に存在しなくなる。例は投票ゲーム。
社会での利害関係は、一人の人間が消費者であり投資者であり預金者である。おうした幾何構造をもった協力ゲームの分析が進んでいる。

○不確実な世界における行動法則
客観確率・・・大量のデータに裏付けられた物的な確率
主観確率・・・人間の心の中のものさしで測ったもの。自分という個性の中に存在する温度計。
主観確率を最初にいったのはケインズ。
ナイト流不確実性理論・・・経済活動が直面する不確実現象とは、確率を割り当てることのできないたぐいのものであり、そこでの人間の行動様式は極端なものになる
人々は確率がわからないときには、複数の確率状況を思い浮かべ、その中で最も都合の悪い確率に照準を合わせたうえで最も被害の少ない行動を選択する。
ダウ&ワーラン効果・・・動こうとする方向がわるい方向にみえる。
だから確率がわからないと人は行動できず、薄商いが生じる。
新卒の就活が保守的なのも説明できるかも。

○勝ち組は、運か実力か
ネットワーク外部性・・・ある製品やサービスを利用するときの利便性が、それ自体のもっている物理的な利便性だけでなく同じ商品がほかにどれだけ多くのユーザーに利用されているかに依存してきまること。
ネットワーク外部性はデジタル・エンターテイメント社会では大きな意味をもち、一大ブームを巻き起こしたり、一人勝ち状態を生み出したりする。
これを金融市場に応用する筆者の研究。
金融市場特有の摩擦・・・金融商品を本当のお金に変えるのにかかる手間や時間。
需要と供給が一致するのはすべての私的情報がオープンでないといけない。
実際の市場取引はどこかで最適性に目をつぶり、調整のための距離や時間に制限を設けるもの。
サーチ理論・・・経済行動する人や企業が、価格とか人とか資源などを探すためのコストを明示的に取り入れた理論。
摩擦を明示的にとりいれることで、失業の恒常性な存在や、初任給にいろいろな差があることなど、伝統的な経済理論では難しい現象を説明できる。
金融市場の摩擦とは一般的に流動性と呼ばれる。参加人数の少ないときの金融市場は摩擦が大きく流動性が小さい。ネットワーク外部性の閑散状態。逆は大きい、ヒット状態。閑散状態になると参加者個人の合理的行動だけではぬけだせない、これは金融市場の価値とは無関係に引き起こされる。社会的には非効率だ。
保険は「大数の法則」をバックボーンにして成立している。
大数の法則・・・たくさんのサンプルを集めれば、ある出来事の実際の生起の頻度は確率通りになる。
サンプルが多いので公的保険の方が社会的に有用かもしれない。民間でおこなうと競合がふえて大数の法則が成立しなくなるリスクか、独占による歪みで保険料が高騰することになる。


第2部 幸せな社会とはどういうものか
○どんな経済、社会が望ましいか
経済学者は、抜け目ない儲け方ではなく、おおよそ「どうやったら、みんながより幸せになれるか」に興味がある。
幸せになるを考えるにはお金儲けは避けて通れない。
経済的視点は正義感や義憤に水を差すので、退屈なアナリストになってしまうが、それでも知的努力を放棄した自己満足のロマンチストよりまし。
正義感で無軌道な投資をした大企業を仮想「悪者」とするのは、巡り巡って自分にふりかかる。経済社会はすべての歯車が複雑に絡み合っていて、遠くの歯車が壊れれば、すべての歯車が動かなくなるかもしれない。それが不況。
環境問題は結局は経済問題。みんなができるだけ幸福になるようにと設計された現在の社会システムの副作用が環境問題。
環境にやさしいが人の生活に優しいとは限らない。
ABCさんしかいない社会で、エコ生活にめざめたAさんがCさんのタクシーを使わなくなった例で、全体の所得の減少を説明。しかしエコ生活と所得の減少のつながりは無自覚なので、不満がいわれないところに向かう危険がある。
環境問題を解決するなら、このような社会不安を回避する方法を考えておかなければならない。

○今、コモンズを考える
20世紀は環境問題の世紀だった。
環境問題を経済理論で分析する手法として「外部不経済」がつかわれた。
外部不経済・・経済活動が市場取引を通じない形で市民に不利益を与えること。公害が典型。
市場の失敗・・・外部不経済が存在すると、市場取引は必ずしも社会的最適性をもたらさない。
解決のための環境税は、生産量と汚染量の最適な関係をはじきだすことが原理的に不可能という問題がある。
コモンズの悲劇・・・オープンアクセスな共有地=コモンズは、必然的に荒廃する。
個人の合理性の合計が集団としての非合理性をもたらす、悪いのは個人ではなく「共有地のオープンアクセス」という経済構造。
このような研究は悲観的結末をもっていたが、現実はちがった。
市民の環境に関する意識が激変し、企業行動に影響を与えた。
これまでの経済学は市場だけに注目したが、高度に発達した経済社会では、情報の伝播の作用により、市場の外側にも経済のメカニズムが働き得る。
消費者がエコを意識した経済活動をすると企業も環境を意識した製品を開発する。公共政策にも環境が配慮される。従来のケインズ型の公共政策は見直されつつある。

○デフレ不況への処方箋
小野理論
従来の経済では不況になると賃金は下降するが、その後労働者は現行の賃金より安くても働きたいと考えるために賃金は下がり、やがて雇用は回復するとしていたが、小野理論では賃金が下がっても雇用が回復しないケースがあることが理論的に示された。

デフレだとお金をもっているとできることが増えるので、何も消費しなくても人が快楽を得られるのでお金が使われないということがありえる。
そうするとお金は使われず景気は回復しない。
これは将来インフレを引き起こすことによる回復と根は同じ。出口のない迷宮である。
このばあい、失業する労働力は劣悪で不要だからではなく貨幣経済というシステムがもたらす災いにすぎない。

小野理論では増税によって政府が公共事業を行い、失業者を雇用することで有用であるにもかかわらず封じ込められている労働力を利用することを提案する。

○伝統的な経済学の限界
伝統的な経済学ではすべての情報は公開されていて利用できるのが前提になっているが、これはおかしい。われわれは常に抜け目ない裁定戦略をとるわけではない。むしろ真逆。
制度学派では人間は「絶えず新しい展開を求めて、夢をもち、その夢を実現しようとする本源的な性向と歴史的に受け継いできた習慣を持った、一個の有機的存在」とみる。
人々は自然環境が規定する限界の中にそれと調和する制度をつくって活動すると考える。環境と不調和がおきると包括的な立場から制度を修正し、時には抜本亭に組み換えを行って環境とうちとけていく。
営利企業も一つの有機体と考えることで、その設備などを瞬時に解体したり用途を変えたりできるものとして扱う従来の経済学とは異なっている。
有機体であれば過剰な設備や機械が蓄積され、不況がおきる。資本主義社会は本源的に不安定性を内臓しているのである。

○お金より大切なものはあるか
社会的共通資本
市民一人一人が人間的尊厳を守り、魂の自立をはかり、市民的自由が最大限に保たれるような生活を営むために重要な役割を果たすような財・サービス。
これらの財は、このような性質から私有や私的管理、市場における価格的取引が適用することは許されない。社会の共通の財産として社会的な基準にしたがって管理・維持される。
例 自然環境=自然資本、道路などのインフラは社会資本、医療学校・司法行政金融は制度資本
従来の経済学では環境はやっかいもの扱いされてきたが、「自然資本」を含む社会共通資本が市場システムの不備と不安定性を補い、人間社会に豊かさをもたらすとした。

コモンズの悲劇についても、実際のコモンズの利用者は特定の村や知意識の人でオープンアクセスではないと否定している。

ベーシック・インカム・・・貧困者への救済として国民に一律の金額を貨幣で供与する政策。
社会的共通資本がない社会では価格が高騰しようとも否応なく利用せざる得ない金額は高騰し、ベーシック・インカムがおいつかず社会は不安定化する。
それよりも社会的共通資本を整備することで、市民の最低生活水準を保障するほうがいいとする。
お金より生活環境の整備の方が社会にいいというのである。

デフレでは貨幣の存在と、それへの偏執狂的な態度がデフレを事故循環させるので、貨幣よりモノをうみだす財政政策のほうがよい。
貨幣を保有しなくても、購買しなくても、ある程度の生活の快適さを得ることができるのが社会的共通資本とする。

貨幣が引き起こす悲劇には非貨幣的なシステムを使って対抗するという考えである。


○私たちが暮らすべき魅力的な都市とは
機能優先の合理的都市空間は暮らしにくいことがわかっている。
魅力的で暮らしやすい都市は、一つの場所が多機能であることがしられている。今の経済学は多機能なものを分析するのが苦手だ。

○人間の「不完全知」といかに向き合うか
公共財・・・分割して消費できない、国防、電波放送などのサービス。
公共財は自由な価格取引は実現されない。
社会的共通資本では「混雑現象」が発生することが違う。病院のまち行列など。
不完全知をうけいれるなら、社会的共通資本は、思い込みによる不完全知を修整できるかもしれない。
インターネットは非貨幣的な価値観。今の若者はネットから無料の音楽・ゲームなどで楽しんでいる。お金のない不幸とは無縁にみえる。一種社会的共通資本的空間なのかも。
ゼロ成長は悪いことではなく、先進国には必要ないという考えがある。経済自体は変化しないが、内部では華やかで人間的な営みが展開され、新しい背活区間が創出され続ける社会=定常状態。継続的な成長が必要なのは途上国のみ。
ゆたかであるがせわしなさのない世界。

第3部 「物語」について数学的思考をしよう
○世界を構成する「どうどうめぐりの道具」
ことばを使わず、ことばを説明するのはできない。そうした曖昧な領域が学問をつきつめていくとある。それが次の4つの「どうどうめぐりの道具」
・哲学のことば
・数学における数
・経済における貨幣
・科学における時間
ことばと数、数と貨幣、貨幣と時間、時間とこばについて論じている
特に貨幣と時間については、社会的文脈や物語で解決しようとしているという。ただし最初から物語に頼るのではなく、数学的明かりで極限まで照らし出したからこそ、本当の闇が浮かびあるといっていた。
物語が市場を動かす例。インターネットでひと財産築いた若者たちの物語がITバブルを生みだした。
ケインズのアニマルスピリットもこれに近い。

○村上春樹のトポロジー
トポロジー(位相)・・・対象物の間の隔たりと連なり方から新奇な空間を創造するのがトポロジー。
村上春樹の小説ではこの手法と対応するような方法でものごとを空間化している。
生と死の空間的に配置に関するそのトポロジーの追及。

○IQ84はどんな位相空間か
ニュートンは瞬間の速度を得るために微分積分を考えた。それは「無限小の時間」を使う方法である。
トポロジーは1点だけで考えず周囲のふくらみをあわせて考える。一点に向かて無限に収縮する輪のあつまりがトポロジー。これを導入すると空間の内部、外部,境界をきちんと定義できる。
IQ84は、あえそうであえない、あちらとこちらの空間の物語。それはトポロジーでは「地続きだが普通の道をたどることでは行きつけない場所がある空間」数学用語では「連結だが道連結ではない空間」

○暗闇の幾何学
村上春樹の小説では図形イメージ=幾何学と論理が使われていることを解説。だから数学の知識を使っているのではないのに数学的に感じる。
この二つを使っているので世界的に通用する内容になっている。


数学的思考の技術 (ベスト新書)

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  • 作者: 小島 寛之
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2011/02/08
  • メディア: 新書



タグ:小島 寛之
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