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希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く [ビジネス]

若者は先の見えない時代に不安になり、希望がもてないでいる。早急に総合的な対策をださなければ、自暴自棄になった若者たちが歳をとってしまい、日本が崩壊する。

2003年国民年金未納率36%

かつて日本は将来は豊かな家族生活を築けるという希望が達成可能だったが、今は一部の能力の高いものだけは活躍の場があり希望がもてるが、多くのものが「宝くじにあたりたい」という夢を見ながら希望を持てない状況になりつつある。

日本では生活の不安定さが増している。
それは「現在と同程度のせいかつさえできなくなるのではないか」という不安。
いままで安定していた制度(サラリーマン専業主婦型など)のリスク化
そして戦後縮小に向かっていたさまざまな格差が拡大に向かっている二極化
この二つが不安を増大させている。
そして苦労しても報われない、努力しても無駄という心理的格差=希望格差がうまれた。

不安の増加は1998年に不登校、ひきこもり、中高年の自殺増加、まったく勉強しない中高生の増加にあらわれている。

社会が不安定化(リスク化、二極化)するのは、人々の自由度が増したからで、避けることはできない。流れを前提にして対応が必要だ。

リスクについての考察
生活リスク・・・人並みの生活ができなくなる危険性
近代以前は外部要因によるリスク(自然災害など)が多かったが、現代は選択によるリスクが大きい。
親の職業を継がなくてよくなった代わりに、まったく職につけないリスクもうまれた。
結婚離婚の自由がうまれたが、好きな人と結婚できる保証があるわけでもなく、結婚できても離婚のリスクを抱えるようになった。
近代人には、リスクをとって理想的な状態を自分で実現せよというプレッシャーがかかっている。

・リスクの普遍化
戦後成長期には、学校による職業へのパイプライン(振り分け)と、終身雇用によって、ローリスク(安全可能性の高い)の選択肢があったが、それはもはや機能しなくなっている。
現代はリスクを強要される社会なのだ。
リスクは普遍化し、こうしていれば安全という領域がなくなりつつある。

・リスクの個人化
1990年ごろまでは個人と国民社会の間に中間集団=家族・企業があって個人を守っていたが、その意志と余裕をなくしつつあり、かえって中間集団自体がリスクになりつつある。
また、弱者に転落するリスクは個別にふりかかるため、弱者同士での連帯は難しい。フリーターといっても一人暮らしで生活に困る人もあれば、親元で生活を楽しんでいる人もいる。社会保険や年金もリスクになりつつあり、不安が人々の意識や行動を変化させている。
リスクの個人化は自己責任を強化する。運によるものも含めてあらゆるリスクに対処することが個人にもとめられるのだ。そういった社会になると将来に対して戦略的に考えるひとが増えて、社会が活性化すると自由化論者は考えるが、実際には希望もやる気も失って「運だのみ」で生きる、努力せずリスクに目をつむり現実逃避する人間が生まれている。こうした人たちの特徴は夢をおいかけて、それが実現しなかったとき(運が悪かったとき)のことを考えないこと。


二極化・・・生活水準の格差拡大
量的格差・・・収入など
質的格差・・・ステイタス
心理的格差・・・将来への希望がもてるか
量的格差からはじまったものが質的格差、心理的格差につながっているのが今の日本。

格差そのものは悪くはないが、人々が納得できる格差かは重要。
前近代では伝統や宗教による格差が固定化していた。
近代では実力が格差となった。
しかし、実力格差時代の問題として
1親の格差による間接効果。・・・裕福な家の子どもは教育機会が大きい。
2性役割分業社会・・・主婦の生活水準は夫に依存
3弱者が出現する・・・職業によらず市場のニーズで収入が決まるので、格差の拡大がとめどない。結果自分の生活を維持できないものが出現する。
がある。
高度成長期には親の資産のほとんどは戦災でうしなわれていて影響が少なく、年功序列による収入増加と経済成長による労働力不足で失業の心配がないなどで問題は潜在化していた。

ニューエコノミー(生産構造の転換)により、企業などに必要とされる仕事能力の質的格差が出現している。専門性が要求される職種とマニュアル通りに働くだけで能力の向上が原則必要ない職種に二極化している。
家族がどれだけ利用できるかによる階層格差拡大。以前は夫の収入のみで決まっていた生活水準が、家族形態特に妻の収入によって生活水準がかわってくるようになった。他に親の援助(有形・無形)がどの程度うけられるかでも変わる。
職業と家族による相乗効果で二極化は加速している。
裕福な親は子供を中核的な専門労働者にすべく教育している。こうして強者の子どもが強者になる図式が成り立ち始める。そして、結婚や職業選択が自由である以上、この流れを止めるのは難しい。

格差と人々のやる気の関係は、あまりに平等では能力のある人がやる気をなくし、生まれの要因が大きいのも能力のある人のやる気をなくす。また、あまり能力による格差が強調されれば能力がない人のやる気がなくなる、乗り越えられない階層の壁を感じると、やる気は失われる。
現在おきているのは、能力のある人のやる気を引き出すが、能力がないと自覚する人のやる気を失わせる効果もある。また、家族の利用可能性も自分ではどうすることもできない。勉強する気のない中高生がいるのはこのためである。そうして希望の格差が増大していく。

普遍的になったリスクを避けるには、コストがかかり、二極化の勝ち組はコストを負担できるが、負け組はできなくてよりリスクが高くなる。
リスクが普遍化する以前はそこそこの能力があればリスクを避ける選択肢があったし、発生したリスクから守ってくれる集団もあったが、今はすべて個人でやらなければいけない。
こうして社会的弱者がつくられる。

戦後安定社会の構造
1職業領域で「企業の男性雇用の安定と収入増加」
2家族領域で「サラリーマンー主婦型家族の安定と生活水準の上昇」
3教育領域で「学校教育の職業振り分け機能の成功と学歴上昇」
この3つで選択の自由を広げながらも格差を潜在化させることに成功した。
さまざまな不満は成長期待によって抑制された。
受験戦争はあったものの、一種のふりわけであり、教育課程のパイプラインにのって、その出口の職業につくというローリスクな選択肢をとっていれば、それなり豊かな家庭生活を送ることができた。
また、家族と企業が生活リスから人々を守っていて、家族関係は安定し、特に女性は家族に属していれば一生生活が保障されていた。
企業も安定していたし、自営業者も業界団体などで保護されていた。
他にも宗教団体、そして日本共産党ははじかれた人々を吸収していた。
現在では集団が人々をリスクから守る機能を徐々に放棄している。
経済成長が収入増加をささえ、成長による格差を緩和していた。
これらの安定は、バブルに入ると消えていく。バブル経済期は景気が良くて成長率が高くても、生活リスクが高まり質的格差がはじまりつつあった。グローバリゼーションは中間集団を不安定にさせた。


職業の不安定化
現在職業世界に起こっているのは「構造的」変化である。

フリーターが増えたのは不況のせいや、若者が自由を求めたからでもない。産業構造の転換によるもの。
若者が「好きでやっている」というのは適応したからにすぎない。
豊かになった消費者を満足させるのは従来の商品ではない。みせびらかす商品である。必要なのは「変人」と「精神分析家」、労働力はなるべく下げるということになる。こうして職業は中核的専門家と単純労働者にわかれ、その裂け目は大きくなる。現在日本では、労働時間は前者は長く、後者は短い。

職業の不安定化は人間のアイデンティティ問題を介して社会秩序の不安定化を招く。

フリーターの定義
学生と主婦を除く15-34歳の若者、パート、アルバイト、無職で働く意志のある人。
2001年の統計で417万人。

現在の日本では企業内でオールドエコノミーとニューエコノミーが同居しており、若年層はニューエコノミーの影響をもろにうけて、そのおかげで中高年の雇用が維持されるという状態。

二極化は職種ごとにすすみ、大学院博士課程修了者は毎年1万人以上だが、大学教員や常勤研究員のポストは3000人程度。常勤教員になれれば年収500万だが、非常勤講師は100万円。
しかしこれまで投資したコストが大きく期待値が高いため、方向転換できず夢を追うことになる。
こういった、いつか自分の理想的な仕事や立場につけるはずと考え単純労働者である自分の姿を心理的に正当化するのがフリータの夢である。親が今はこうしたフリーターを支えている。こういったフリーターは比較的リッチで未婚のため、ホームレスまで転落する若者は少ない。しかし近年はできちゃっと婚で経済状態が不安定なまま子供を育てる若者が増えている。
また、親がいつまでも支えられないのでいずれ不良債権化することは目にみえている。対策が必要である。


家族の不安定化
ライフコースが予測不可能
以前は生活の上で便利という意味もあったが、近代では家族は心のよりどころ絆感覚である。また共同でリスクを処理し、お互いを守り合うものであったが、現在は生活リスクの増大によりお互いが相手のリスクになっている。
家族をもつことは安定にならなくなった。家族を持つ=快適な生活ではなくなった。

結婚のリスク
経済的に親元を離れると生活レベルが下がるため新生活がはじめられない。選択の自由があるので、結婚したい相手と結婚できない。
離婚率は2003年の時点で、結婚した数の3分の1。
配偶者への期待水準が高いので、仕事だけ家事だけしていれば相手から嫌われないということはなくなた。他の異性に会う機会が増えて、配偶者以上に好きになる確率もあがっている。

家族における生活リスクが増大すると「サラリーマンー主婦型家族」からはみ出すケースが増える。
1家族形成を控えてリスクを無くす人・・・収入が増えるまで結婚しない。
2リスクに陥って人並みに生活できない家族。・・・フリーター同士のできちゃった婚
2の場合は絆も失うことが多い。

親子関係のリスク
親が要介護状態になるリスク
子どもにどれだけお金がかかるかわからないリスク

家族リスクに対しては個人的に対処できることはほとんどない。
そしてライフコースが予測不可能になる。

家族の二極化
表面的に同じライフスタイルでも、選び取ったライフスタイルなのか、強いられたライフスタイルなのかを区別しないと実態はわからない。

望みのライフスタイルを実現するには、個人の仕事能力、性的魅力、生まれが影響する。
また、家族形態が生活に格差を与える。
34歳までの世帯では、妻がフルタイムで働く世帯は夫の収入も高い強者連合が形成されている。
男女交際が活発化すると性的魅力のあるものは何度も結婚するが、ないものは一度も結婚できないどころかパートナーもいないという事態もおこる
親子関係でも子どもを「勝ち組」にしようとするひとは、中核的専門家にするべく教育し、国際経験のため留学させたりする。
子どももより裕福な親の側にすみ、中高生でも親をすてて養護施設に駆け込むものもいる。親が捨てられることもあるのだ。

少子化は家族リスクの先送りであり、できちゃった婚はリスクに陥った家族である。
リスクに陥った家族では児童虐待もおきており、それはカウンセリングでなく経済的解決が必要である。

家族リスクは潜在的にすべての家族がもっているが、運よく陥らないものもいる。そのため家族崩壊の原因を個人的な資質に求める議論がおこるが、家族リスクを前提にした議論が必要。


教育の不安定化
パイプラインの機能不全

従来の教育ではその目的は人格の形成とか学ぶこと自体が楽しいとか、文化の伝達であるべきといわれていた。
しかし学校教育は子どもとその親にとっては階層上昇(もしくは維持)の手段であり、社会にとっては職業分配の道具である。
こういった投資リターンの考えはとても教育界からは嫌われるが、社会的欲求とはあっている。
教育は手段であって目的ではない。

近代社会では職業は自由選択されるが、これは個人としては、職業につけないリスクがあり、社会にとっては必要な仕事に見合う人が集まるとも限らないというリスクがある。このリスクを低減させるのが学校教育システム。
個人は努力を無駄にせず職業につけるし、社会は一定の教育をうけた若者が適当な割合で職業についてくれるというメリットがある。

小・中を太いパイプ、高校受験で分岐して本人の選択と適性、努力で違うパイプに入る。その後も受験や就職活動という分岐で特定の職業に押し出される。パイプラインを飛び出す自由もあるが、リスクを伴うのでほとんどのものがパイプラインを流れることを選んできた。
こうすることで無駄な努力をせず、効率的に職業につけた。受験勉強も批判はあっても個人の努力が報われるという意味があった。また勉強すれば階層で上にいくこともできた。
弊害は一度入ったパイプから他のパイプにはうつれないこと。また自動的におしだされるので分岐点(受験)に対する努力が大きくなること。
こうなると生徒は特定の職業につきたければ自発的に勉強して、パイプにはいれば自動的に就職できて先生も恵まれた状況だった。

現代ではパイプラインの先が細くなり(職がない)、各所に痛みや亀裂ができてそこから漏れがでている。
そのため中年のフリーター博士が誕生することになる。
正規のパイプラインが漏れてくると、一時避難場所として各種学校や専門学校が増えたが、その先があるわけではない。

パイプライン自体は存在するので、漏れた人ともれなかったひとの格差は広がっている。
そして漏れのないパイプラインは限られている。
青少年はパイプラインに入ってもリスクをとらされる。
安全なパイプラインは医学部工学部看護学校などぐらい。
載るパイプラインでも格差があるのである。
どのパイプラインに入るかは親のインテリジェンスや経済力が影響する。

パイプラインには
1能力に見合った職に送り出す機能
2過大な期待をあきらめさせる機能
3階層上昇の機能
があったが、漏れが生じたために機能が失われている。
そのため青少年が教育に対して寄せる希望に格差が生じている。

不安は
1学歴に見合った職につけなくなる
2あきらめる機会がなくなる。大学をおちて専門学校など
3勉強して上野学校に行くことで豊かな将来があるとは思えない
とあるが、パイプラインに変わるものがいまのところない。

こうした状況が学力低下をまねいているのであり、決して教師の教え方や親が悪いのではない。
勉強しても就職に結びつかない、勉強しても仕方がないという事実のためである。


希望の喪失  リスクからの逃走
経済生活が不安定になり、将来の予測がつかなくなる人が増えることは外面的な問題だけでなく、心理や意識にも影響を与える。
将来が現在より不安定と思えば希望がもてず、苦労やつらさといった努力をすることはできない。
日本の現状は能力のあるもののやる気は引き出すが、能力がそこそこのもののやる気は削ぐという面がある。高度成長期のようにだれでも希望を持てる社会ではなくなっている。

希望を失った人々絶望しはアディクション(嗜癖)に走り「はまる人」になることが多い。
アディクションはこれさえやっていれば一時的に現実の苦労をわすれられるもの全般を指す。
しかし、ストレス解消になるかもしれないが問題は解決されず、アディクションにはお金がかかり、一般的に刺激の程度がエスカレートするもので、問題行動が増えることになる。宗教に頼るものも増える。
最終的には自暴自棄の犯罪に走る。

嫉妬も絶望感から「エンビー型」(他人が自分と同じ不幸になることを願う気持ち)になる。ジェラシーは相手と同じように幸福になろうとする。そうすると犯罪も不幸の道連れになる。
希望を喪失したものの非社会的行動は自殺やひきこもり、不登校など現実からの撤退行動に表れる。

希望=苦労や大変さに耐える力が弱いことが問題行動の原因で個人主義や家庭崩壊、刑罰が軽からなどではない。
希望をそだてるには「ちいさな苦労」に出会ってその苦労が報われる経験をもつこと。
現代社会で青少年をつらさから遠ざけすぎている、免疫をつけるための苦労体験をさせるべき。
そうしなければいきなり苦労にさらされうことになる。

パラサイト・シングルは一見楽しそうに見えるが結婚相手のいない独身者で、フリーターは単純労働者で、現在の仕事が理想の将来に結びつくものではない。かれらの夢は現実生活を忘れるためでそれにむかって努力している人は少ない。
そしてその夢が妥協をはばんでいて、やりたい仕事につけるまでフリーターでいるしかないとか、理想のあいてが現れるまで結婚しないという行動になる。妥協したらいままで待っていたことが否定されるからである。
夢見ることは親によって容認され、親もお金をかけて育てたのだから理想の職業や結婚相手がみつかって当然と考えがちである。妥協すると子育てのエネルギーが無駄になるから。
しかし、彼らが将来の日本のお荷物になることは間違いない。


いまできること、すべきこと
不安定化している社会をどうコントロールしていくかは、ニューエコノミーの影響をうけている先進国すべての問題。
解決策として、さらなる自己責任と自由の推進をもとめるものと懐古主義的に安心社会に戻ろうとする意見があるが、どちらにも賛成できない。

自由化は能力ある人に活躍する場を与えるが、失敗者や希望を失う人もだすからである。
また、安定化社会に戻そうとしても能力のある人が海外にいってしまうだけだろう。

不安定化社会に個人的に対処することにも限界がある。
努力しても報われないリスクは、本人だけでなく、家族、運などもあるからである。

社会学者ライシュ、ブルデュー、バウマンなどの論者によれば個人的対処への公共的支援が必要としている。リスク化や二極化に耐えうる個人を、公共的支援によって作り出せるかがカギ。
能力をつけたいのに資力がないものに能力開発の機会を与えたり、努力したら報われることが実感できる社会をつくること。機会だけ与えて結果は知りませんでは若者が落胆している。

教育システムは職業システムはこのくらいの努力でこのくらいの収入、仕事につけるという保証をつけるべき。誰でもでkる比較的単純な仕事に対して努力してスキルをつければある程度評価されるというシステムの導入が望まれる。
パートやアルバイトに昇進試験をしたり、マッサージなら学校卒業生が系列店で働けるなどの制度。
その職についている経験をいかそうをする人に報いるシステムをつくること。

能力に対して過大な夢を持つ人への対策としてカウンセリングが必要。

家族はもっとコミュニケーション能力をつけ、社会もそれを評価するようにしたい。

そしてこれらの対策が総合的に、スピードをもって行われる必要がある。
インパクトのある対策を早急に打ち出さなければ社会の不安定さは深刻度を増す。


希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)

希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)

  • 作者: 山田 昌弘
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫



タグ:山田 昌弘
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